婚礼撮影で気を付けているいくつかのこと

婚礼撮影で気を付けているいくつかのこと

読者にはまったく興味のないことかも知れないけど、ちょっと書いておく。

婚礼撮影というのは、気を使うものではあるし、独自のルールというものがいくつも存在している。
その中から、いくつか書いていく。

最近、いろんな会場で撮影していて、あまり守られていないのだが、切れる、とか、終わる、とかの言葉はタブーである。そのことは、先輩カメラマンに、若い時に教わった。
タブーの理由は、それらの言葉は縁起が悪いから。
例えば、披露宴の終わり、ではなく、披露宴のシメ、とか、言い換える。
僕は、いまでも、先輩カメラマンの言葉を守って、縁起の悪い言葉は使わないように気を付けている。

去年、とある会場のスタッフから僕にクレームがあって、それ以来、気を付けていることがある。
その日の僕は、とてもしんどそうな顔をして、撮影をしていたらしい。
確かに、披露宴スナップというのは、けっこう疲れるし、休憩時間なんてものもない。挙式前から披露宴後まで、ずっと立ったり座ったり、撮影している。
あとは、暗い、とかクレームで言われたので、撮影の時は、いつも笑顔で、明るい声で、披露宴のBGMや生演奏などに合わせて体を軽く横揺れさせて、みんなが拍手するところは、出来るだけ拍手して、参加者の一員、という気持ちで挑んでいる。
つまり、バカになりきって、ノリのいい人を演じるように、気を付けている。
ノリが悪いよりかは、ノリがいい方が、周り、特にお客様からの印象がいいだろう。

いいカメラマンかどうかは、実際に撮影した写真だけではなく、そのような意識や態度にも現れてくるだろう。
偉そうにしている婚礼カメラマンが、集合写真をきれいに並べられなかったり、終わるとか平気で言ったり、しんどうそうな顔をして撮影していたら、なんだこんなものか、と、ついつい、僕は思ってしまう。
こういうことは、みんな、僕が失敗してきたことだ。失敗して、誰かから注意を受けて、直そうとしてきたことである。

だからと言って、よほどじゃない限り、僕は他のカメラマンなどに、
そういう忠告をしないようにしている。
それは、会場や所属する会社などによって、ルールが違うし、求められることが異なるから。
僕自身、会場のそういう決め事に最初、戸惑うことは多々ある。

エンドロールの撮影というのは、サブカメラマンのスタンスを要求されるし、それで許されるので、マジメな写真だけではなく、ピースとかのポーズをお客様にお願いしたり、イエーイ、とか言いながら、僕は撮影している。イエーイ、とこちらが言うと、向こうも、イエーイ、というノリになってくれることが多いので。

先日、とあるホテルでエンドロールの撮影をした。
いつものノリで、僕は撮影をしていると、僕よりも少し歳下の洋服店の店長をしている新郎と、それに相応しい感じの新婦が、僕の顔を見るたびに、顔を合わせて、何やら笑っているのに気が付いた。
僕に似た共通の知り合いがいるのか、僕のノリがおかしいから笑っているのか、よく分からないけど、そうなったら、しめたものである。
案の定、出来上がった写真は、お二人のいい笑顔であった。

あまり撮影に慣れていないカメラマンは特に、自分と相性がいい新郎新婦、相性のよくない新郎新婦、などと感じるようである。
僕自身、そうであった。
現在の僕は、そういうことはまったく気にならない。
そんなことよりか、全体の流れを意識している。
新郎新婦にもよるけど、緊張して、いい表情を引き出せない、ということは、多々ある。お二人はプロのモデルではないし、初めての挙式を前にして、緊張しない方がおかしいだろう。
そういう時は、無理をしない。
挙式が済んだら、緊張がほぐれて、笑顔になることも多々あるから。
どこかに、そういうポイントがあるはずなのだ。
お二人のポイントを見つけて、それを撮影していけばいいのであって、こちらが無理やり、強引に撮影をコントロールする必要はないのではないだろうか。
必要最低限は、仕事なので、支障がないように、仕上がってからクレームにならないように、撮影をするけどね。

相手を笑わせたり、緊張をほぐしたり、そういうことが写真撮影の半分以上を占めている。上手く写せるなんてことは、当たり前のことで、望遠レンズを使ったり、スペックの高いデジタルカメラを使うことも大事なことかも知れないけど、僕は、ある程度以上の水準の機材を使えばいいのであって、あまり機材にはこだわっていないし、200ミリクラスの望遠レンズを使わない。

僕が婚礼撮影で意識しているのは、相手に、僕が撮影していることが当たり前だと認識してもらうことである。誰だって、よく知らない他人にレンズを向けられたら、構えたり、緊張する。そして、表情が引きつったりする。それは仕方がない。
まずはそれでいい。一日の全体の中で、だんだんと、僕という存在を馴染ませていって、ああ、こいつはこういうやつなんだな、と感じてもらえればいい。こういうやつだから撮影しているんだな、仕方ないな、と相手に思ってもらえればいい。撮影することを許してくれる、受け入れてくれる、そういう気持ちに、相手の無意識がなってくれればいい。仕方ないな、と感じてもらえれば、油断というのが出てくる。油断して、油断してもいいかな、と相手に思ってもらえれば、いつもの笑顔を、写真で引き出せるだろう。